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大阪地方裁判所 平成7年(わ)3763号 判決

裁判所書記官

森康清

本籍

大阪府東大阪市菱屋東一一九番地の一

住居

同市荒本九七六番地の二 二四棟一一〇号

無職

岡本末隆

昭和二三年一二月一九日生

右の者に対する法人税法違反、所得税法違反、相続税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官酒井徳矢出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役一年八月及び罰金一八〇〇万円に処する。

未決勾留日数中三〇〇日を右懲役刑に算入する。

右罰金を完納することができないときは、金一五万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、

第一  平成二年に自己の所有していた土地建物を譲渡した辰巳義孝(住所は大阪市東住吉区桑津二丁目一四番二八号ヴェルドール河堀口七〇一号、以下「辰巳」という。)から依頼を受け、辰巳の所得税確定申告手続に関与したものであるが、右辰巳及び辰巳から依頼を受けて同申告手続に関与した道下貞彦(以下「道下」という。)と共謀の上、辰巳の同年分の所得税を免れようと企て、実際には、辰巳において租税特別措置法三七条四項に規定する譲渡所得の課税の特例の適用を受けるための買換資産を取得する意図がなく、辰巳の同年分の分離課税の長期譲渡所得金額が二億六六四〇万五三五八円(別紙一の1修正損益計算書参照)で、これに対する所得税額が六四六〇万一二〇〇円(別紙一の2税額計算書参照)であったにもかかわらず、辰巳において平成三年中に右特例の適用を受けるために買換資産として建設機械を取得する見込みである旨の虚偽の内容を記載した買換え承認申請書及び右特例の適用により辰巳の平成二年分の長期譲渡所得金額五三八六万三〇六〇円(別紙一の1修正損益計算書参照)で、これに対する所得税額が一一四六万五七〇〇円(別紙一の2税額計算書参照)である旨の虚偽の内容を記載した所得税確定申告書を作成してその所得の一部を秘匿し、平成三年三月一三日、大阪市平野区平野西二丁目二番二号所在の所轄東住吉税務署において、同税務署長に対し、右買換え承認申請書及び所得税確定申告書を提出し、右特例の適用についての承認を受けた上、同年中に買換資産として右建設機械を取得した事実がないのに、これを購入した旨の代金請求書及び領収証を作成してその購入の事実を仮装し、右特例の適用を受ける際の修正申告期限である平成四年四月三〇日までに、同税務署長に対し、所得税の修正申告書を提出せず、もって、不正の行為により、別紙一の2税額計算書記載のとおり、辰巳の平成二年分の所得税五三一三万五五〇〇円を免れ

第二  大阪府東大阪市小若江三丁目一五番一四号(平成七年八月一日より大阪府八尾市新家町八丁目六三番地の三に移転)に本店を置き、運送業を営むヤマヨ運輸株式会社(資本の額は一五〇〇万円)の実質的代表者として同社の業務全般を統括している工藤義克から依頼を受けて同社の法人税確定申告手続に関与したものであるが、右工藤義克、同社の代表取締役で経理責任者をしていた工藤貞子及び工藤義克から依頼を受けて右申告手続に関与した道下と共謀の上、同社の業務に関し、法人税を免れようと企て

一  平成三年六月一日から平成四年五月三一日までの事業年度における実際の所得金額が二億四二八四万三七四五円(別紙二の1の(一)修正損益計算書参照)で、これに対する法人税額が八九八九万一五〇〇円(別紙二の1の(二)税額計算書参照)であったにもかかわらず、架空傭車料等の架空経費を計上するなどの行為により、その所得を秘匿した上、同年七月二九日、大阪府東大阪市永和二丁目三番八号所在の所轄東大阪税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額が〇円で(別紙二の1の(二)税額計算書参照)、これに対する法人税額が〇円(別紙二の1の(二)税額計算書参照)である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定の申告期限を徒過させ、もって、不正の行為により、別紙二の1の(二)税額計算書記載のとおり、右事業年度の法人税八九八九万一五〇〇円を免れ

二  平成四年六月一日から平成五年五月三一日までの事業年度における実際の所得金額が二億五五八五万四九一九円(別紙二の2の(一)修正損益計算書参照)で、これに対する法人税額が九四八六万九八〇〇円(別紙二の2の(二)税額計算書参照)であったにもかかわらず、前同様の不正の行為により、その所得を秘匿した上、同年七月二二日、前記東大阪税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額が〇円(別紙二の2の(一)修正損益計算書参照)で、これに対する法人税額が〇円(別紙二の2の(二)税額計算書参照)である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定の申告期限を徒過させ、もって、不正の行為により、別紙二の2の(二)税額計算書記載のとおり、右事業年度の法人税九四八六万九八〇〇円を免れ

三  平成五年六月一日から平成六年五月三一日までの事業年度における実際の所得金額が四億二八四六万四五七七円(別紙二の3の(一)修正損益計算書参照)で、これに対する法人税額が一億五九四七万〇二〇〇円(別紙二の3の(二)税額計算書参照)であったにもかかわらず、前同様の不正の行為により、その所得を秘匿した上、同年七月二七日、前記東大阪税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額が〇円(別紙二の3の(一)修正損益計算書参照)で、これに対する法人税額が〇円(別紙二の3の(二)税額計算書参照)である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定の申告期限を徒過させ、もって、不正の行為により、別紙二の3の(二)税額計算書記載のとおり、右事業年度の法人税一億五九四七万〇二〇〇円を免れ

第三  長野市大字高田字前河原一〇八四番地一に本店を置き、運送業を営む信州ヤマヨ運輸株式会社(資本の額は二五〇〇万円)の実質的代表者として同社の業務全般を統括している工藤義克から依頼を受けて同社の法人税確定申告手続に関与したものであるが、右工藤義克、同社の経理責任者であった工藤貞子及び工藤義克から依頼を受けて右申告手続に関与した道下と共謀の上、同社の業務に関し、法人税を免れようと企て

一  平成四年六月一日から平成五年五月三一日までの事業年度における実際の所得金額が七三四八万〇九四〇円(別紙三の1の(一)修正損益計算書参照)で、これに対する法人税額が二六六二万〇九〇〇円(別紙三の1の(二)税額計算書参照)であったにもかかわらず、架空傭車料等の架空経費を計上するなどの行為により、その所得を秘匿した上、同年七月二九日、長野市西後町六〇八番地の二所在の所轄長野税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額が〇円(別紙三の1の(一)修正損益計算書参照)で、これに対する法人税額が〇円(別紙三の1の(二)税額計算書参照)である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定の申告期限を徒過させ、もって、不正の行為により、別紙三の1の(二)税額計算書記載のとおり、右事業年度の法人税二六六二万〇九〇〇円を免れ

二  平成五年六月一日から平成六年五月三一日までの事業年度における実際の所得金額が七六四三万四二七九円(別紙三の2の(一)修正損益計算書参照)で、これに対する法人税額が二七七八万九二〇〇円(別紙三の2の(二)税額計算書参照)であったにもかかわらず、前同様の不正の行為により、その所得を秘匿した上、同年七月二八日、前記長野税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の欠損金額が一八三五万六二五五円(別紙三の2の(一)修正損益計算書参照)で、これに対する法人税額が〇円(別紙三の2の(二)税額計算書参照)である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定の申告期限を徒過させ、もって、不正の行為により、別紙三の2の(二)税額計算書記載のとおり、右事業年度の法人税二七七八万九二〇〇円を免れ

第四  静岡県浜松市篠ヶ瀬町九五八番地に本店を置き、運送業を営む東海ヤマヨ運輸株式会社(平成七年五月三一日までの資本の額は五〇〇万円、同日より一〇〇〇万円)の実質的代表者として同社の業務全般を統括している工藤義克から依頼を受けて同社の法人税確定申告手続に関与したものであるが、右工藤義克、同社の取締役で経理責任者であった工藤貞子及び工藤義克から依頼を受けて右申告手続に関与した道下と共謀の上、同社の業務に関し、法人税を免れようと企て

一  平成四年四月一日から平成五年三月三一日までの事業年度における実際の所得金額が五二六〇万九三三六円(別紙四の1の(一)修正損益計算書参照)で、これに対する法人税額が一八五二万九二〇〇円(別紙四の1の(二)税額計算書参照)であったにもかかわらず、架空傭車料を計上するなどの行為により、その所得を秘匿した上、同年五月二四日、静岡県浜松市砂山町二一六番地の六所在の所轄浜松東税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額が〇円(別紙四の1の(一)修正損益計算書参照)で、これに対する法人税額が〇円(別紙四の1の(二)税額計算書参照)である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定の申告期限を徒過させ、もって、不正の行為により、別紙四の1の(二)税額計算書記載のとおり、右事業年度の法人税一八五二万九二〇〇円を免れ

二  平成五年四月一日から平成六年三月三一日までの事業年度における実際の所得金額が三六六五万四三一七円(別紙四の2の(一)修正損益計算書参照)で、これに対する法人税額が一二八五万七〇〇〇円(別紙四の2の(二)税額計算書参照)であったにもかかわらず、前同様の不正の行為により、その所得を秘匿した上、同年五月三〇日、前記浜松東税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額が一二四万六七五四円(別紙四の2の(一)修正損益計算書参照)で、これに対する法人税額が二二万〇六〇〇円(別紙四の2の(二)税額計算書参照)である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定の申告期限を徒過させ、もって、不正の行為により、別紙四の2の(二)税額計算書記載のとおり、右事業年度の法人税一二六三万六四〇〇円を免れ

第五  大阪府東大阪市渋川町二丁目一〇番二〇号に本店を置き、陳列金物製造業を営む株式会社有明製作所(平成四年一一月一〇日までの資本の額は五〇〇万円、同日より二〇〇〇万円)の代表取締役として同社の業務全般を統括している川畑春夫及び同社の経理責任者である川畑芳子から依頼を受けて同社の法人税確定申告手続に関与した道下及び仲野正信の両名から依頼を受け、同社の架空取引先となったものであるが、右川畑春夫、川畑芳子、道下及び右仲野と共謀の上、同社の業務に関し、法人税を免れようと企て

一  平成三年九月一日から平成四年八月三一日までの事業年度における実際の所得金額が九〇二七万六〇二一円(別紙五の1の(一)修正損益計算書参照)で、これに対する法人税額(課税留保金に対する法人税額を除く。)が三二八四万七四〇〇円(別紙五の1の(二)税額計算書参照)であったにもかかわらず、架空仕入を計上するなどの行為により、その所得の一部を秘匿した上、同年一〇月二九日、前記東大阪税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額が三四三六万四八八三円(別紙五の1の(一)修正損益計算書参照)で、これに対する法人税額(課税留保金に対する法人税額三万〇二〇〇円を除く。)が一一八八万〇四〇〇円(別紙五の1の(二)税額計算書参照)である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定の申告期限を徒過させ、もって、不正の行為により、別紙五の1の(二)税額計算書記載のとおり、右事業年度の法人税二〇九六万七〇〇〇円を免れ

二  平成四年九月一日から平成五年八月三一日までの事業年度における実際の所得金額が八五一九万八二〇二円(別紙五の2の(一)修正損益計算書参照)で、これに対する法人税額が三〇九八万四四〇〇円(別紙五の2の(二)税額計算書参照)であったにもかかわらず、前同様の不正の行為により、その所得の一部を秘匿した上、同年一〇月二七日、前記東大阪税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額が三一一〇万一二四八円(別紙五の2の(一)修正損益計算書参照)で、これに対する法人税額が一〇六九万八〇〇〇円(別紙五の2の(二)税額計算書参照)である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定の申告期限を徒過させ、もって、不正の行為により、別紙五の2の(二)税額計算書記載のとおり、右事業年度の法人税二〇二八万六四〇〇円を免れ

三  平成五年九月一日から平成六年八月三一日までの事業年度における実際の所得金額が八二一八万九三七七円(別紙五の3の(一)修正損益計算書参照)で、これに対する法人税額が二九九二万二二〇〇円(別紙五の3の(二)税額計算書参照)であったにもかかわらず、前同様の不正の行為により、その所得の一部を秘匿した上、同年一〇月二八日、前記東大阪税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額が三四八四万六四五九円(別紙五の3の(一)修正損益計算書参照)で、これに対する法人税額が一二一六万八六〇〇円(別紙五の3の(二)税額計算書参照)である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定の申告期限を徒過させ、もって、不正の行為により、別紙五の3の(二)税額計算書記載のとおり、右事業年度の法人税一七七五万三六〇〇円を免れ

第六  平成五年二月二六日に死亡した古川博一を被相続人とする相続税の申告に関与したものであり、古川博康は古川博一の次男であり、古川博一の養子である古川泰成及び古川博一の妻である古川文枝とともに古川博一の財産を相続し、古川博康自身の相続税の申告及び古川泰成の代理人として古川泰成の相続税の申告に関与したものであるところ、右古川博康、右申告に関与した道下、鈴木幸三及び名倉博と共謀の上、古川博康の相続税及び古川泰成の相続税を免れようと企て、被告人古川博康の相続財産にかかる実際の課税価格が四億五六一一万円(別紙六の1相続財産の内訳表参照)で、これに対する相続税額が二億五八二〇万五九〇〇円(別紙六の2税額計算書参照)であり、古川泰成の相続財産にかかる実際の課税価格が一三億五七七九万円(別紙六の1相続財産の内訳表参照)で、これに対する相続税額が七億六八〇五万一一〇〇円(別紙六の2税額計算書参照)であったにもかかわらず、古川博一が他から一二億円の債務を負担しており、古川博康及び古川泰成がそれぞれそのうち四億円ずつを承継したと仮装した上、平成五年一〇月二七日、兵庫県芦屋市公光町六番二号所在の所轄芦屋税務署において、同税務署長に対し、古川博康の相続財産にかかる課税価格が五六一一万円(別紙六の1相続財産の内訳表参照)で、これに対する相続税額が二八二五万九四〇〇円(別紙六の2税額計算書参照)であり、古川泰成の相続財産にかかる課税価格が九億六五六六万円(別紙六の1相続財産の内訳表参照)で、これに対する相続税額が四億八五一五万四六〇〇円(別紙六の2税額計算書参照)である旨の内容虚偽の相続税の申告書を提出し、そのまま法定の申告期限を徒過させ、もって、不正の行為により、別紙六の2税額計算書記載のとおり、右相続にかかる古川博康の相続税二億二九九四万六五〇〇円及び古川泰成の相続税二億八二八九万六五〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)(括弧内の番号は証拠等関係カードにおける検察官請求証拠の番号を示す)

判示事実全部について

一  被告人の当公判廷における供述

一  分離前の相被告人道下貞彦の当公判廷における供述

判示第一の事実について

一  被告人の検察官に対する各供述調書(二七六ないし二七八)

一  分離前の相被告人辰巳義孝の当公判廷における供述

一  辰巳義孝(二六八ないし二七〇)、道下貞彦(二七三ないし二七五)、山口耕作(二六三)、北野繁和(二六五)、植野元三(二六六)及び盛山剛(二六七)の検察官に対する各供述調書

一  査察官調査書(二六〇ないし二六二)

一  査察官調査報告書(二五六、二五七)

一  証明書(二五四)

一  「所轄税務署の所在地について」と題する書面(二五五)

一  土地登記簿謄本(二五八)

一  建物閉鎖登記簿謄本(二五九)

判示第二ないし第四の事実全部について

一  分離前の相被告人工藤貞子及び工藤義克の当公判廷における各供述

一  山岡義夫(一六五ないし一六九)、工藤義克(一八三、一九八)、工藤貞子(二〇二)、村木謙一(一五四)、和本仁司(一五五)、坂上弘修(一五六)、奥野弘太郎(一五七)、藤森智彦(一五八)、酒井隆(一五九)、仲野正信(一六二)、山口幸子(一六三)及び中曾根登(一六四)の検察官に対する各供述調書

一  査察官調査書(八七)

判示第二及び第三の事実全部について

一  分離前の相被告人ヤマヨ運輸株式会社及び信州ヤマヨ運輸株式会社の各代表者山岡義夫の当公判廷における供述判示第三及び第四の事実全部について

一  被告人の検察官に対する各供述調書(二四七、二四八)

一  工藤義克(一九三、一九四)、工藤貞子(二一四、二一五)及び道下貞彦(二三〇、二三三、二三四)の検察官に対する各供述調書

判示第二の二、三、第三及び第四の事実全部について

一  査察官調査書(一〇三)

判示第二の三、第三の二及び第四の二の各事実について

一  査察官調査書(八六)

判示第二の事実全部について

一  被告人の検察官に対する各供述調書(二四〇ないし二四四、二四六)

一  工藤義克(一八四ないし一八六、一八八ないし一九一、一九八)、工藤貞子(二〇三、二〇四、二〇六ないし二一一、二一三)及び道下貞彦(二二一ないし二二四、二二六ないし二二九)の検察官に対する各供述調書

一  山岡義夫の大蔵事務官に対する質問てん末書(四九四)

一  査察官調査書(七一、七五、七八ないし八〇、八三ないし八五、八八、九一、九三、九六、一〇〇ないし一〇二、一〇四、一〇五)

一  査察官報告書(四九三)

一  「所轄税務署の所在地について」と題する書面(六八)

一  法人登記簿謄本(一七二、一七四)

一  法人閉鎖登記簿謄本(一七三)

一  閉鎖された役員欄用紙謄本(一七五)

判示第二の一及び二の各事実について

一  査察官調査書(七七、九〇)

判示第二の二及び三の各事実について

一  査察官調査書(八一、九二)

判示第二の一の事実について

一  工藤義克(一八七)及び工藤貞子(二一二)の検察官に対する各供述調書

一  査察官調査書(七〇、七六、八二、八九、九四、九七ないし九九)

一  証明書(六五)

判示第二の二の事実について

一  査察官調査書(七二)

一  証明書(六六)

判示第二の三の事実について

一  査察官調査書(六九、七三、七四、九五)

一  証明書(六七)

判示第三の事実全部について

一  工藤義克(一九六)、工藤貞子(二一六)及び道下貞彦(二三一、二三五)の検察官に対する各供述調書

一  査察官調査書(一一四ないし一一九、一二一ないし一二三、一二五、一二六)

一  「所轄税務署の所在地について」と題する書面(一一〇)

一  法人登記簿謄本(一七七)

一  閉鎖された役員欄用紙謄本(一七八)

判示第三の一の事実について

一  査察官調査書(一一一、一一二、一二四、一二八)

一  証明書(一〇八)

判示第三の二の事実について

一  査察官調査書(一一三、一二〇、一二七)

一  証明書(一〇九)

判示第四の事実全部について

一  分離前の相被告人東海ヤマヨ運輸株式会社の代表者工藤義光の当公判廷における供述

一  工藤義光(一七〇)、工藤義克(一九五、一九七)、工藤貞子(二一七)及び道下貞彦(二三二、二三六)の検察官に対する各供述調書

一  査察官調査書(一三五ないし一四二、一四五、一四七、一四八、一五〇ないし一五二)

一  「所轄税務署の所在地について」と題する書面(一三三)

一  法人登記簿謄本(一七九)

一  閉鎖された役員欄用紙謄本(一八〇、一八一)

判示第四の一の事実について

一  査察官調査書(一三四、一四三、一四四、一四六、一四九)

一  証明書(一三一)

判示第四の二の事実について

一  工藤義光の検察官に対する供述調書(一七一)

一  証明書(一三二)

判示第五の事実全部について

一  被告人の検察官に対する各供述調書(五九、六一)

一  分離前の相被告人川畑春夫、川畑芳子及び仲野正信の当公判廷における各供述

一  川畑春夫(三二ないし三五、三七)、川畑芳子(四一ないし四四、四六ないし四八)、道下貞彦(四九ないし五三)及び仲野正信(五五ないし五七)及び卒田正(八)の検察官に対する各供述調書

一  査察官調査書(一五、二三、二四)

一  「所轄税務署の所在地について」と題する書面(七)

一  法人登記簿謄本(二八)

一  閉鎖された役員欄用紙謄本(二九、三〇)

判示第五の一の事実について

一  証明書(四)

一  査察官調査書(九、一一、一二、一六、一八、二五、二六)

一  大蔵事務官作成の報告書(五一六)

判示第五の二、三の事実について

一  査察官調査書(一〇、一七、一九、二〇、二二、二七)

判示第五の二の事実について

一  証明書(五)

一  査察官調査書(一三)

判示第五の三の事実について

一  証明書(六)

一  査察官調査書(一四、二一)

一  査察官報告書(四九五)

判示第六の事実について

一  被告人の検察官に対する各供述調書(三三六ないし三三八)

一  分離前の相被告人古川博康及び名倉博の当公判廷における各供述

一  古川博康(二九八ないし三〇四)、道下貞彦(三〇八ないし三一二、三一五)、名倉博(三一九ないし三二二)、鈴木幸三(三二七ないし三三一)、藤森智彦(二八九)、大串恵子(二九二)、西角完二(二九三)、武地義治(二九〇、二九一)、古川文枝(二九五)及び古川直子(二九六)の検察官に対する各供述調書

一  査察官調査書(二八三ないし二八五)

一  証明書(二八一)

一  「所轄税務署の所在地について」と題する書面(二八二)

(法令の適用)

被告人の判示第一の所為は平成七年法律第九一号(刑法の一部を改正する法律)附則二条一項本文により同法による改正前の刑法(以下「旧刑法」という。)六五条一項、六〇条、所得税法二三八条一項に、判示第二の一ないし三、第三の一、二、第四の一、二及び第五の一ないし三の各所為は、いずれも旧刑法六五条一項、六〇条、法人税法一五九条一項に、判示第六の所為のうち、古川博康の相続税を免れた点は、旧刑法六五条一項、六〇条、相続税法六八条一項に、古川泰成の相続税を免れた点は、旧刑法六五条一項、六〇条、相続税法七一条一項、六八条一項にそれぞれ該当するが、判示第六の各罪は一個の行為で二個の罪名に触れる場合であるから、旧刑法五四条一項前段、一〇条により一罪として犯情の重い古川泰成の相続税ほ脱罪の刑で処断することとし、判示第一、第五の一ないし三及び第六の各罪について、いずれも所定刑中懲役刑及び罰金刑の併科を選択し、かつ、情状により、判示第一の罪については所得税法二三八条二項を適用して右の罰金の額はその免れた所得税の額に相当する額以下とし、判示第六の罪については相続税法六八条二項を適用して右の罰金の額は古川泰成の免れた相続税の額以下とすることとし、判示第二の一ないし三、第三の一、二及び第四の一、二の各罪について、いずれも所定刑中懲役刑を選択し、以上は旧刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第六の古川泰成の相続税ほ脱罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により、判示第一、第五の一ないし三及び第六の各罪所定の罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役一年八月及び罰金一八〇〇万円に処し、同法二一条を適用して未決勾留日数中三〇〇日を右懲役刑に算入することとし、右罰金を完納することができないときは、同法一八条により金一五万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとする。

(量刑の理由)

一  本件は、被告人が、判示のとおり、道下をはじめとする各共犯者と共謀の上、所得税確定申告手続一件、法人税確定申告手続一〇件、相続税申告手続一件に関与し、合計一〇億円余りもの巨額の脱税を行ったという事案である。

二  そこで、まず、本件各犯行の態様及び被告人の本件各犯行における関与の態様についてみる。

1  まず、判示第一の辰巳義孝の事案は、同人の土地建物の譲渡所得に関し、買換資産を取得する意図がないのに、かかる意図があるように装って、租税特別措置法三七条四項の課税の特例の適用による過少な所得税を申告し、その後、買換資産を購入せず、修正申告もしないままに修正申告期限を徒過させて所得税五三〇〇万円余りを免れたというものであるところ、買換資産の購入事実を仮装するために、内容虚偽の領収証や請求書を作成し、また、同和団体が税務署に対して圧力をかけられるとの認識から、脱税の発覚を防止し、発覚した際にも税務署に圧力をかけて摘発を免れるため、辰巳が同和団体の幹部の肩書を持つ被告人から買換資産を購入したように装い、さらに、修正申告期限後に税務署から買換資産の購入の事実の有無について問い合わせがあった際には前記の領収証や請求書を平和商工会を通じて提出するなど、犯行は計画的かつ巧妙なものである。

被告人は、右犯行において、その経営していた居酒屋の客からの紹介で辰巳から所得税確定申告の相談を受け、同人を道下に引き合わせ、道下の提案による脱税方法に従うよう辰巳を慫慂して、同人から脱税の依頼を受けるに至ったものであり、前記のとおり、買換資産の架空購入先となっただけでなく、内容虚偽の請求書、領収証を平和商工会を通じて税務署に提出したほか、脱税報酬額の決定や分配等にも関与したのであるから、被告人は、右犯行において欠くことのできない重要な役割を果たしたものと評価できる。

2  次に、判示第二ないし第四のヤマヨ運輸株式会社、信州ヤマヨ運輸株式会社、東海ヤマヨ運輸株式会社(以下、三社を併せて「ヤマヨ三社」という。)の事案は、いずれも、被告人のダミー会社であるスエタカ企画などに対する架空傭車料、架空経費の計上、売上の一部除外などの方法によって敢行されたものであり、ほ脱税率もほぼ一〇〇パーセントと高率の極めて悪質な脱税事案であるところ、スエタカ企画に対する架空傭車料支出を仮装するために、スエタカ企画名義の銀行預金口座を開設して、右口座に振込送金し、現実に傭車料が決済されているかのように装い、また、内容虚偽の領収証や運送契約書を作成したほか、被告人において架空傭車料支出に見合う収入を所得税確定申告で計上するなどしている。さらに、ヤマヨ運輸株式会社の事案においては、同和団体が税務署に対して圧力をかけられるとの認識から、西成同友会を通じて本件の確定申告を行うなどしており、犯行は計画的で大胆かつ巧妙なものである。

被告人は、かつて暴力団組員であったころ、ヤマヨ三社の実質的代表者である工藤義克の弟分であり、組員を辞めてからも同人の世話になっていたことから、同人の依頼により、スエタカ企画の名称で被告人とヤマヨ三社との間の取引を仮装することを承諾して、ヤマヨ三社の脱税に協力しており、スエタカ企画に対する架空傭車料等の架空経費の計上がヤマヨ三社の脱税の中心的部分を占めていたことに鑑みれば、被告人は、右犯行において、重要な役割を果たしたものと評価できる。

3  次に、判示第五の株式会社有明製作所の事案は、ミツワ商事及びスエタカ企画に対する架空仕入を計上するという方法によって敢行されたものであるところ、右の仕入を仮装するために、仕入代金の請求書、領収証を作成した上、代金額に見合う手形や小切手を振り出し、銀行の預金口座においてこれらを決済して現実に仕入代金が支払われたかのように装い、さらに、同和団体が税務署に対して圧力をかけられるとの認識から、西成同友会を通じて本件の確定申告を行うなどしており、犯行は計画的で巧妙なものである。

被告人は、右犯行において、脱税方法の大半を占める架空仕入の計上について、スエタカ企画の名称で架空仕入の相手方となることを承諾して、右犯行に関与したものであり、その役割は重要なものと評価できる。

4  最後に、判示第六の古川博康の事案は、相続財産に、名倉博に対する一二億円もの架空の借入金債務を計上して課税価格の総額を過少に申告するという方法によって敢行されたものであるところ、同和団体が税務署に対して圧力をかけられるとの認識から、同和団体の幹部の肩書を持つ被告人が名倉博に融資をし、名倉がその融資金を被相続人である古川博一に融資したように装ったり、平和商工会を通じて本件の相続税申告を行うなどし、さらに、右申告後においては架空借入金債務を仮装するため、古川博康から名倉博名義の預金口座に四億八〇〇〇万円を振込送金して、古川博康が名倉に対して相続した借入金債務の一部を返済したように装うなど、犯行は計画的で大胆かつ巧妙なものである。

被告人は、右犯行において、当初、古川博一に対する架空貸付けの貸主として右犯行に関与することになったが、古川博康の意向で貸主を名倉にすることになった後も、前記のとおり、同和団体の幹部の肩書を持つ被告人が名倉に融資し、同人がその融資金をさらに古川博一に融資するという形で右犯行に関与し続けたのであり、前記のような同和団体に対する被告人らの認識に照らせば、被告人が右犯行において果たした役割は軽視できない。

三  本件各犯行によるほ脱税額も、辰巳義孝の事案が約五三〇〇万円、ヤマヨ三社の事案が約四億二九〇〇万円、株式会社有明製作所の事案が約五九〇〇万円、古川博康の事案が約五億一二〇〇万円といずれも高額で、これらのほ脱税額の合計は約一〇億五〇〇〇万円にものぼり、本件は極めて重大な脱税事案というべきである。

四  また、ヤマヨ三社の事案を除く本件の各犯行は、いずれも多額の脱税報酬を目当てにした常習的、職業的犯行というべきであり、右各犯行に関与したことにより、辰巳義孝の事案においては約一〇六〇万円、株式会社有明製作所の事案においては約七〇〇万円、古川博康の事案においては約一五〇〇万円、合計約三二六〇万円もの多額の脱税報酬を受領している。しかも、被告人は、これらを全く脱税依頼者らに返還しておらず、今後も直ちに全額を返還することは困難といわざるを得ない状況にある。

五  以下のとおり、本件脱税の規模、態様、被告人の本件各犯行への関与の態様、脱税報酬の受領状況等からすれば、被告人の刑事責任は極めて重大と言うほかない。

六  他方、被告人は、辰巳義孝の事案以外においては、脱税方法の決定には関与しておらず、具体的な脱税工作もほとんど道下等の他の共犯者らによってなされており、被告人は、専ら、架空仕入や架空傭車料等の支払先として名義を貸したり、借入金の仮装に協力したりしたに過ぎない。また、脱税報酬についても、一旦道下が受領した上、道下が被告人に分配していたのであり、報酬の分配額の決定も道下に任せられていたものである。本件各犯行によって得た脱税報酬の合計額を見ても、道下の受領額が約一億二〇〇〇万円と被告人の受領額に比べて三倍以上と多額であることなどからすれば、被告人は、前記のとおり、本件各犯行において重要な役割を果たしていたが、その役割は、道下に比べれば一段低いものであったということができる。

また、ヤマヨ三社の事案においては、スエタカ企画を利用した架空傭車料の計上等被告人の直接関与する脱税方法が犯行の中心部分を占めていたといえるが、それ以外の被告人の直接関与しない方法による脱税も相当多額である上、脱税報酬も、工藤義克に恩義を感じていたこともあり、受け取っておらず、常習的犯行の一環とはいえ、脱税報酬目当てに職業的に累行された他の事案とは若干趣を異にする面もある。また、株式会社有明製作所の事案における、ミツワ商事に対する架空仕入の計上については、被告人が犯行に関与する前に、請求書、領収証の作成や代金の決済などの不正行為は終了しているのである。さらに、古川博康の事案においては、道下、古川、名倉らが数回にわたって会合を重ねて相続税の脱税方法を決定し、その後に道下から依頼されて本件に関与したのであって、他の共犯者と比較すれば、右犯行における被告人の関与の度合は小さいといえる。

加えて、被告人には、銃砲刀剣類所持等取締法違反による古い懲役前科一犯があるに過ぎず、同種前科はないこと、被告人は、事実を素直に認めて反省し、受領した脱税報酬についても、今後返還していくように努力する旨誓約していることなど、被告人に有利な事情も認められる。

七  しかしながら、前記の本件脱税の規模及び被告人の本件各犯行への関与状況等に鑑みれば、本件は到底執行猶予で済まされる事案ではなく、被告人を主文の懲役刑及び罰金刑に処するのが相当であると判断した。

よって、主文のとおり、判決する。

(裁判長裁判官 田中正人 裁判官 伊元啓 裁判官 渡部市郎)

別紙一の1

修正損益計算書

〈省略〉

別紙一の2

税額計算書

〈省略〉

別紙二の1の(一)

修正損益計算書

〈省略〉

別紙二の1の(二)

税額計算書

〈省略〉

別紙二の2の(一)

修正損益計算書

〈省略〉

別紙二の2の(二)

税額計算書

〈省略〉

別紙二の3の(一)

修正損益計算書

〈省略〉

別紙二の3の(二)

税額計算書

〈省略〉

別紙三の1の(一)

修正損益計算書

〈省略〉

別紙三の1の(二)

税額計算書

〈省略〉

別紙三の2の(一)

修正損益計算書

〈省略〉

別紙三の2の(二)

税額計算書

〈省略〉

別紙四の1の(一)

修正損益計算書

〈省略〉

別紙四の1の(二)

税額計算書

〈省略〉

別紙四の2の(一)

修正損益計算書

〈省略〉

別紙四の2の(二)

税額計算書

〈省略〉

別紙五の1の(一)

修正損益計算書

〈省略〉

〈省略〉

別紙五の1の(二)

税額計算書

〈省略〉

別紙五の2の(一)

修正損益計算書

〈省略〉

〈省略〉

別紙五の2の(二)

税額計算書

〈省略〉

別紙五の3の(一)

修正損益計算書

〈省略〉

〈省略〉

別紙五の3の(二)

税額計算書

〈省略〉

別紙六の1

相続財産の内訳

(総額)

〈省略〉

(古川博康分)

〈省略〉

(古川泰成分)

〈省略〉

(古川文枝分)

〈省略〉

古川博康の課税価格(1000円未満切り捨て)の公表金額は56,110,000円、実際額は456,110,000円となる。

古川泰成の課税価格の公表金額は965,660,000円、実際額は1,357,790,000円となる。

古川文枝の課税価格の公表金額は1,021,296,000円、実際額は1,421,205,000円となる。

各相続人の課税価格の合計額の公表金額は2,043,066,000円、実際額は3,235,105,000円となる。

別紙六の2

税額計算書

古川博康

〈省略〉

古川泰成

〈省略〉

納付すべき税額は、100円未満切り捨て。

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